「万引き家族」感想文(ネタバレなし)

2018年/是枝裕和監督

出演:リリーフランキー安藤サクラほか

気楽に見れる

お話が凝ってる★★★★★

演技がすごい★★★★★

音楽が良い★

 

日本人監督作品として21年ぶりにカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞したことで話題の「万引き家族」。

色々な要素がタイムリーすぎることからも、現代の日本におけるリアルな社会問題を描いているということが切実に分かりますが、私はやっぱり「家族について」が主題の映画じゃないかなと思っています。

(自分の生活で手一杯な私にとって、社会問題より家族についての方がより近しいところにある問いだからかもしれませんが)

劇中で明確な答えを提示することはしませんが、受け手の心に様々な問いを投げかけ深く考えさせる映画です。

 

 

 

■「家族」という概念を定義するものとは

万引き家族」を通して私が感じた家族の概念についての話を述べるにあたり、つまらない自分の身の上話に少し触れることについてご容赦ください。

 

万引き家族」に登場する柴田家は血縁者もいれば全く縁もゆかりもない子供たちもいて明らかに異質な世帯構成ですが、一家には笑顔が溢れ、「貧しいながらも幸せな暮らし」を体現する暮らしぶりです。

ですがこれが映画である以上、歪みがいずれ転機となり物語が収束する、というのは映画を見る前から誰もが予測できる未来です。貧困、万引き、「連れ去り」のかたちになってしまった子供たち…柴田家にはあまりにも歪みたる要素が多いです。

 

柴田家は「万引き」や「お金」、あるいは「エゴ」でしか繋がれない他人同士であり、世間でそれを家族と定義するのは難しい。作中でも、虐待され寒空の下団地の廊下に締め出されていたゆりを柴田家の父・治が連れて帰り6人目の家族として迎え入れ楽しく暮らしますが、「本当の家族の元にいるのが一番いい」と「世間」から非難されることになります。

 

普遍的な題ですが本当の家族って何でしょう。血が繋がっていることが本当の家族なのか、他人同士は家族になれないのか、たとえ血が繋がった家族だったとしても本質は「自分ではない他の人」という意味でもそれぞれの人生を生きている他人ではないのか。夫婦は「家族になりたいと思った他人同士」ではないのか。

 

虐待をするような親はもはや人間性の問題であり子供たちをこれから救う、というのは社会問題のひとつですが、もっと当たり前に世の中にある当たり前の人々が直面している人生の命題、家族をどう捉え、どう付き合うのか。

作中では「自分で選んだ家族の方が強いんじゃない、絆」と母の信代が述べるシーンがあります。成人すれば、家族になりたいと思った人と結婚して家庭を持つこともできるけど、子供は普通は家族を選べない。

私は子供の頃からなんとなく他人との人付き合いが苦手で、それは親やきょうだいとも例外ではありませんでした。自立できない子供時代はごまかしながら生きてきたけれど、大人になってから無理をして家を出て、自分の中で「家族は家族でも他人の集まりなのだから、距離を置いた方が良好な関係を築けることだってある」というひとつの答えを出しました。もちろんこれが全ての人に当てはまる真理とは思っていません。いつか家族になりたいと思える人と出会えたらいいなとは思いますが、早急に求めているわけでもないです。

少なくとも私は、家族は他人の集まりだと思っていますが、同時に他人とも家族になれると思いたいです。

万引き家族」の柴田家についてどう捉えるか、どう捉えるべきなのかは様々なしがらみや社会的問題が絡むと思いますが、それでも間違いなく「柴田家」はひとつの家族という関係性について描いていると思うのです。血縁でしか繋がっていない家族があるように、柴田家は万引きやお金で繋がっている家族なんじゃないか…。

 

見る人それぞれによって問題として深く捉える点も、その問題に対する答えも変わる映画だと思います。是非劇場に足を運んでそれぞれの気持ちと向き合ってみてもらいたいです。

 

 

■まとめ

邦画はあまり見ないのですが、この映画を日本人が製作し世界で評価された、という点も含めて深く考えさせられる良い映画でした。

どうでもいいですがリリー・フランキーがけっこう好きです。社会からはみでたおじさんの演技に説得力がありすぎる…。

 

 

ではまた。