「ビューティフル・ボーイ」感想文

2018年/フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン監督
出演:ティモシー・シャラメ、スティーブ・カレルなど
気楽に見れる★★
お話が凝ってる★★★★★
映像がすごい★
音楽がいい★★
 
こんにちはやぁたろです!映画の記事は久々になってしまいました。
今回は「ビューティフル・ボーイ」の感想文です。
 

 ■生まれつき心に穴の空いている人

薬物中毒に悩む青年ニック・シェフの苦悩と、それを支える父親デヴィットや周りの人を父親視点で描く物語。

 

私はもちろん薬物は一切手を出したことがないのですが(念のため…)久々に共感度150%の映画で見た後めちゃくちゃしんどかったです…。でもそれだけ良い映画だったなと。

話の中心は薬物依存にまつわるものなので、薬物ってやっぱこわいネ…みたいな感想に着地するのも間違いではないと思うのですが、たまたまニックが依存するものとして薬物を選択してしまったから破滅したのであって、これって私も含めて「生まれつき心に穴が空いている人」みんなこうなんじゃないかな、と思ったんです。

ニックも連れ子であるという生い立ちの負い目のようなものはありますが、新しい家族はみんなよくしてくれるし、言ってしまえばよくある話のよくある負い目でしかなくて、これくらいのものって生きていれば誰しもひとつやふたつ抱えていると思うんです。それでも、世の中には生まれつきなにか心にぽっかり穴が空いている魂を持っている人がいる。穴が空いている人はその隙間の寂しさを埋めようとして、物理的な何かに依存して生きていくしかない。これってもう本当に仕方のないもので、魂の成り立ちがそもそも違うんです。穴に詰めるものをうまく選んで、ゆるやかに破滅していくしかないんです。ニックはたまたま薬物を選んでしまって破滅した。そんな話なんじゃないかなと…。

このどうしようもない寂しさって、環境とか生い立ちによる負い目では説明がつかないんですよね。きっかけにはなるかもしれないけれど、そもそもは生まれつきとしかいいようがない。その感覚がわからない人(当人も含め)は結局環境や過去・いま抱えている何かが問題だと思ってそこに理由を見出そうとするんですが、それでは解決しない。だから何回でも再発してしまう…。家族が優しく出迎えてくれて楽しい時間を過ごしたあとにどうしようもない気持ちになって破滅したくなってしまう気持ち、当人にしか分からないんじゃないかなと思います。居場所がないとかそういうのとはまた違う本質的な寂しさ。居場所がなかったり両親を嫌っていたりしたら、どうしようもなくなった時に電話をかけたりはできないんじゃないかな。見る人によってはニックが甘えて生きているだけのように映るかもしれないけれど…。薬物に対しても自分の寂しさに対しても振り回されてどうしようもないやるせなさが伝わって本当につらかった。デヴィットが「自分でどうにかするしかない!」とニックを怒鳴るシーン、本当にその通りでしかなくて、心の穴を何で埋めるかを選ぶかは自分でどうにかするしかないんですけど、どうにもできない、やるせないという言葉でしか形容できないもの。作中では依存しているものが薬物だったので全てが深刻に破滅に向かってしまったけれど、誰しもが抱えているやるせなさ。自分は何を心に詰めてかろうじてまともに生きているだろう?

心に生まれつき穴が空いている人って、人間の愛情がザルを通したみたいにすり抜けて溜められないんです。父親デヴィットや周りで支えてくれる人からいくら全てを超えて愛していると言われても、愛情では穴を埋められない。もちろんデヴィットや周りの人も人間だからそんなニックに対して苦悩するし、結局「他人からの愛情」以上のもっと大きな大きな計り知れない愛みたいなものを捧げることはできないんです…。ニック本人の描写もそうなんですが、両親のどうにもならないもどかしさみたいな描写がまたものすごくしんどくて心の傷全開になりました。親の目線で見るとまた違う苦しさがあるんじゃないかなと思います。

自分のこれまでに重なる部分があってものすごく感情がめちゃくちゃになってしまったのですが、それだけ心の本質を描いてるなと感じられるいい映画でした。

 

■まとめ

生まれつき生きにくい魂を持って生まれたみんな、強く生きていこうな…。

ニック役のティモシー・シャラメがとても美しかったので実はそこも見どころです。

久々にガチで心にくる映画でした。

 

ではまた!