「音楽」感想文

2020年/岩井澤健治監督
声の出演:坂本慎太郎平岩紙など
気楽に見れる★★★★★
お話が凝ってる★★
映像がすごい★★★★
曲がいい★★★★★
 

こんにちは矢澤です!

今日はミニシアター系の長編アニメーション映画「音楽」の感想文です。監督が7年以上一人で手描き作業を続けたという執念の一作…!ノーマークだったんですがめちゃめちゃよかったです…!
 

■「音楽」という題足り得る衝動が詰まった熱い一作

ケンジ、太田、朝倉の不良三人組は、打ち込むものがあるわけでもなく日々なんとなく暇を持て余していた。ある日、ふとしたきっかけでベースを手に入れたケンジは、思いつきで三人でバンドを始めようと提案する…
 
 
「音楽」という途方もない題に挑もうとする時
どうしても難解だったり深すぎる文脈を取ることによってそれを表現しようとしてしまいがちだよなと思うのですが、この映画はびっくりするほどシンプルに、かつ明快に「音楽」という概念の原初を描いています。難しいことは何もない、誰にでも読み取れて理解出来る「音楽」。一切の名前負けがない素晴らしい熱量と表現に度肝を抜かれました。
全体の雰囲気や内容はシュールっぽいゆるめのギャグで、面白いです。声出して笑えます。ものすごく「間」を取る映画なのですが、主人公ケンジ達不良三人組がバンド名を決めるシーンでは圧倒的テンポ感を急にぶっ込んできたりするので非常にずるいです。バンド名の「古武術」という単語のセンスよ…。
そんな風にプッと思わず吹き出してしまうような笑いに溢れた軽い歯触りの映画ではあるものの、一番の見どころであるライブシーンの熱量、迫力はまさに圧巻の一言です。これぞ魂の叫び、体の底から湧き上がる抑えきれない衝動
それが「音楽」…。
書き込みや尺の長さもさることながら、「音の力強さ」がとても心に響きます。これは是非映画館の音響で体感して欲しい…。
そんなライブシーンの他にも、ふとしたセリフの端々に憎い演出があるよなあ、と思ったり。
例えば、楽器の弾き方なんて全然分からなくて、適当に鳴らしたそのひとつの音に対する「音鳴った。スゲー。」という台詞とか、嬉しい気持ちが抑えきれないヒロインのアヤが無意識で歌った鼻歌とか。そういう演出が散りばめられているんですよね。これもまた心から自然と湧き上がる「音楽」、音を楽しむ、ですよね。
それともう一つ「うまいな…」と唸ったのが、ラスト付近のケンジがリコーダーを取り出すシーン。ここ本当に絵面が面白くて、「え!?リコーダー!?www」って思わず笑ってしまうんですけど、でも冷静になると「特別に楽器や音楽を学んだりしていなくても、ほとんどの日本人が家に持っていて、はじめて楽器に触れる原体験になる割合が非常に高いであろう楽器」がリコーダーだよな、と気付くんですよね。いや、これ本当に上手いと思います…。
またこの映画で欠かせない存在なのが、「フォークソング部」に所属していて、ケンジ達より先に「古美術」というバンドを組んでいた森田というキャラクター。こいつがまた良いです。彼は知識も演奏技術もある音楽オタクなんですが、そんな彼とは何もかも正反対の古武術の演奏を聞いて、純粋に、感じたまま、素晴らしい!と言う。そしてケンジ達も古美術のフォークソングを聞いて、やはり素晴らしいと言う。本当に単純明快な音楽で繋がる友情です。世界平和か?森田は他にもいろいろとオイシイキャラクターで本当に面白いです。
 
この映画には「こうでなければならない」という断定は存在せず、「これでいい」という肯定に満ちていました。
これでいい。音楽が大好きで楽しくて、でもだからこそふとした時に難しく考えてしまう。そんな人に見て欲しい映画です。
 
 
■まとめ
久々にパッと「こんな人、この人に見せたいな」が思い浮かぶ映画で、いてもたってもいられず一人マジで映画館に放り投げました(狂気)。
絵とか間とかけっこう独特なんですが、そこがまたクセになる…!キャラクターみんなに愛嬌があって良かった。いい映画です。
 
今回はこんな感じで〜ではまた!