私にはミッドナイトスワンが分からなかった

タイトルの通りです。かなり街評判の良い映画なのですが、私には分からなかった。分からないことがたくさんあった。

「分からなかった、伝わらなかったからこの映画は優れていない」と言いたいのではなくて、「私の読み取り力のどこが不足しているのか、多数の人が理解できて私に理解できない価値観は一体なんなのか」、それを探りたいと思って、分からなかったことを書いています。

 

新宿にあるニューハーフのショーパブで働く凪沙は、故郷の母親からの連絡で、育児放棄されている中学一年生の親戚の子供・一果を預かることに。仕送りがもらえるからという理由で好きでもない子供を預かり、最初は一果のことを冷たくあしらっていた凪沙ですが、いつしか情が芽生えて…というあらすじ。
 
そもそも、この映画のテーマってなんだったんでしょう。
ジェンダー?親子?貧困?愛?
いろいろ思い浮かべてみたんですが、最終的にはどれもしっくり来ませんでした。
これは、もうひとつの分からなかった点である、「登場人物の心理」を私がうまく読み解けていないことに理由があるように思います。
「ミッドナイトスワン」に登場する人たちは、みんな一貫性がないように感じたというか、その人の芯、みたいなものがどんなものなのか私には分からなかったんです。
もしその感覚が私だけのものではなく見ている人みんな共通のもので、みんな「人間はブレるもの」という認識で理解しているから、だとすれば、それはそうなんだと思いますが…。
脈絡がない(脈絡を読み取れなかった)、唐突だなと思った行動やシーンの切り替わりも多かったように感じます。
それが単純に私の読み取り能力不足なのか、インタビューに載っていた「カットしたシーンが多々ある」ことによる都合なのかは私には判断できません。
内容に触れることを前置きした上で、いくつか例を挙げます。
 
・凪沙の一果に対する母性
凪沙は一果に対して「大人と子供」ではなくまずは一人の対等な人間として接するような人柄だと感じていたけど、一果のことを「守るべき対象」として扱い始めたのが急だなと思った
 
・「一果を預かるのは短期間」という前提は凪沙と一果が打ち解けてからも変わっていなかったはず
一果に対して自分の元に来るか、等の話し合いや意思確認をしないまま転職したり、自分の人生まで変えようとするのが唐突に感じられた
(例えば、元々一果の存在は関係なく、生き方や働き方を具体的に変えたいという願望があったのだとしたらそういう描写が欲しい)
 
・りんについて
最初から最後まで感情がよく分からなかったというか、真意が掴めなくて見ていて底のしれない恐ろしさみたいなものを感じていました。悪い子じゃないのかな、というのは分かるのですがいまいち信じきれないというか何を考えているのか分からないというか…
 
・一果について
母親を 選んだ理由が 分からない(川柳)
これについてはインタビューにて「母子はそういうもの」という私には理解できない価値観を描いている旨が明言されているので「そうなんだ…」と言うしかないです そうなんだ…
「不器用なんだけど本当は優しい子」みたいな人間性として受け取ればいいのかな?と思うのですがどうしてもどっちつかずのように見えるし、関わった人間を不幸にする悪魔の子みたいな解釈をされても間違いにはならないのでは…と思ってしまう…
 
話の趣旨が少しずれるかもしれないですが、そもそも私にとってはシスの人もトランスの人も「なぜそんなに自分の性自認がはっきりしているんだろう?」と思うので、正直言ってどちらも等しく分からない存在ですし、他にも自分と他人を比べて分からないことは世の中にたくさんあります。他人が他人のことを完全に理解するのは不可能です。
感情移入したり共感したり出来る映画だけが良い映画かといえばそんなことは全くなくて、共感出来なくても納得出来るいい映画はたくさんありますし、ミッドナイトスワンのように共感も納得も出来なければ、それが何故なのか、自分と他者の間の差異を探ったり、自分と価値観や考え方の違う人たちの言葉を聞いて学ぶ、思考できる映画も、やっぱり良い映画だと思います。
 
凪沙を演じる草彅剛と一果を演じる服部樹咲の演技力の凄まじさについては、レビュー等で挙げられている通り本当に神がかっていて圧倒されました。音楽も素晴らしいです。だからこそ、「今、これは演技力とBGMに引っ張られただけでは…?」と冷静になってしまう瞬間もけっこうあったんですが…。
 
そんな感じで、もしミッドナイトスワンを見た方で、この映画すごく良かった!矢澤さんが分からないと挙げていた点は、自分はこう受け取った!等々のご意見などありましたら、まろやかな感じで(笑)教えてもらえたらすごく嬉しいです。そういう観点でいろんな人に見て欲しい映画かもしれないです。
 
それではまた。