おジャ魔女を知らない私の「魔女見習いをさがして」感想

まずはじめに、この感想はどんな立場の人間の視点から書かれたものなのかを明らかにするために、まずは私のことを簡単に記そうと思います。

 

私、矢澤豆太郎は現在年齢27歳、地方で一人暮らし社会人をしている一般OLです。

いわゆるおジャ魔女どれみ世代ど真ん中と思われますが、実はおジャ魔女はほとんど見たことがないです。放送当時、2歳下の妹がおジャ魔女を喜んで見ていたのを横目に、当の自分は既に女児向けコンテンツには全く興味がなく、ポケモンに夢中でした。

 

そんな「世代自体は一致しているけど、おジャ魔女に対する思い入れや知識はほとんどない」という私ですが、「魔女見習い」はもう今年一番泣いたんじゃないかなというくらい大号泣してしまいました…。

 公式に制作された作品として「おジャ魔女どれみ」のタイトルがついてはいますが、昨今のリバイバルブームの一環や特定のコンテンツの周年記念作品のひとつ、という枠に収めるにはあまりにも惜しい映画です。

 

この作品には、「この令和の時代に20代中盤〜後半という年齢を迎え、今まさに社会でもがいている女性のオタク達」というかなりピンポイントな、だけど確かに存在しているまさに私たちのリアルが描かれている、そう感じました。尚、この場合の「オタク」という属性は、「心の中に大切な拠りどころとなっているコンテンツを持っている人」くらいの感覚で読んでください。

 

 

物語の主人公となるレイカ、ミレ、ソラの三人は、みんなそれぞれ住んでいる場所や年齢、社会的立場も違うけれど、子供時代に出会った「おジャ魔女」というアニメが大好きという共通点があります。おジャ魔女をきっかけに偶然知り合った三人が友情を深めていきながら、自分たちの生き方や未来を模索していく様子を描く…というあらすじです。

イカは19歳(作中で20歳を迎えます)の一人暮らしフリーター、ソラは22歳の大学4年生、ミレは27歳の都会で働くキャリアウーマン…少し前の時代だったら、こんなに年齢も立場もバラバラな人達が出会って友達同士になるなんて考えられなかったように思うのですが、「同じコンテンツを好きな人同士が集まって、年齢や立場の垣根を超えて友達になる」というこの構図がまず非常に現代的でリアルだ、と感じました。同じアニメが好きというきっかけで知り合い、普段はSNSでやりとりをして、たまにイベントや聖地巡礼を口実にして集まって、旅行を楽しんだりお酒を飲んだり美味しいものを食べて、そして好きなコンテンツの話題で盛り上がって過ごす…こういう集団、ものすごく「あり」ますよね!?年の差の具合も絶妙です。あと個人的にはミレがとあるきっかけでレイカの家を訪れようとするのですが、住んでいる地方までの情報しか持っておらず具体的な住所は知らない、というのもなんだか妙にリアルだなと思いました。これは場合によっては住所は知ってるけど連絡先とか本名は知らない、というシチュエーションになりそうな気もします。

 

物語の大部分が「おジャ魔女」の聖地を巡る三人の旅行で構成されていて、この部分は作品ファンの方なら思わずニヤリとするポイントなのかなと思います。自分は全く知識がないので、こんなところも舞台になっているんだ〜とか遠征の楽しさがよく描かれていて良いな〜とかそういう視点で楽しんでいました。

これは余談になるのですが、映画を見終わったあとに友達同士で見に来ていたのであろう私より歳下に見える女の子二人組が「あんなに沢山旅行行ってて羨ましい〜」と言い合っていたのが耳に入ったのですが、自分も作中の三人と同じく旅行に対しての敷居が低い方なので、どちからというと羨望より親近感をもって見ていたなとその言葉で気づきました。すごく豪勢な旅行をしているんじゃなくて、安いプランを組んだり高速バスなどを使っているところもかなり共感度が高かったです。

旅行や聖地巡礼の遠征って行き方さえ掴んでしまえば簡単でぐっとボーダーが下がる性質のもので、「行こうと思えば何処へだって行ける」と気付いている人とそうではない人とではかなり認識に差があります。「何処へだって行ける」と知っている人は旅行に限らずなにかと行動的だったり自分や環境を変えることにも躊躇いがなくて、作中の三人が気軽に旅行を楽しめるのもそういう面が現れているのかなと思いました。

 

三人のパーソナルな部分の描き方も絶妙で、それぞれみんな違った悩みや強み、それに少し「うざったい」ような部分を持っていて、完璧な登場人物はひとりもいません。そんな彼女たちにとても親近感が湧くし、いじらしくて応援したくなる。これは自分と同じだ、みんな同じなんだ、と共感できるところもあれば、自分とは違うけれど私の隣にもこういう子がいるな、と納得できるところもあって、それが「私たち」を大きく内包して描いているように感じます。例えばまさに私と同じ年齢で社会人のミレは、学歴やキャリアは華々しく、その点に関しては共感できる人は少ないと思うのですが、会社で思うようにいかずイライラストレスが溜まったり、コミュニケーションの面で人と衝突してしまったりしてしまうシーンは自分と重なるところが多く、一見順風満帆な人生に見えてもみんな同じく悩んだりストレスを抱えたりするんだな、と見ていて安心できました。

 

また、この作品が優れているなと思った点のひとつが、大抵のフィクションでは上手くいってこれからの未来を示すような展開になるであろう転機の部分がことごとく上手くいかないという、そこをリアルに書くんですか…!?というある意味ちょっと絶望的なストーリー展開です。

話は全体的にご都合主義の部分も多く、実際はそうはならんやろというフィクション要素の強いところも多いのですが、この絶妙な上手くいかなさに関しては本当に現実味があってぞっとします。上手くいかないことがたくさんあって不自由で、でも楽しいことや報われることもたまにあって、そんな少しのキラキラの為になんとか毎日楽しくやっていきましょうや…そんな現代を生きる女たちのリアル。この生き方があまりにも「ほんもの」過ぎて、私はガタガタ震えてしまいました…。恐ろしく本質を捉えた脚本だと本当に思います。

 

誰でもみんな、ちっぽけで深刻な悩みを抱えながらこの大きい不自由に覆われた社会を自由に生きている。たまに友達とお喋りをして美味しいものを食べて旅行をする、そんな少しの贅沢を楽しみに日々を懸命に乗り越えて、社会という大きな流れに翻弄されながらも自分がどうなりたいか、何になりたいかを探し、それに向かって少しずつ歩んでいく…

まさに今を生きている私たちを切り取って描いている、そう思うのです。

主人公の三人は皆ライフステージは違えどこれから何になるか、自分にはなにが出来てどう生きるかを探していて、そのテーマがまさに私たちの世代に向けられたものだと感じました。というのも、(主観によるものが大きいかもしれませんが)ちょうど私の年齢の27歳前後って、なにか大きい仕事をして活躍している人がいたり、新しく家庭を築いていたり、人によっては独立して起業していたり、次のキャリアに向けて仕事を考えていたり…自分が次はどこに行くか、何になるかを考えるタイミングの年齢だと思っていて、私も普段からそんなことをよく考えていたので、「魔女見習い」の大きなテーマがそこに重なるということはやはり我々の世代をターゲットとしているんだろうな、と思ったのです。

 

自分がなりたいもの、やりたいことを探してそれに向かって進んでいくという繰り返しが、結局社会の中で生きることの全てなんじゃないかと私は考えています。

10代後半〜20代前半の頃、私がなりたかったのは「自立出来るくらい稼げてなるべく長い間続けられる仕事に就いて、一人暮らしをしながら趣味のものづくりをする人」でした。こんな些細な夢でも、私にとっては結構手に入れるのが大変で、でも頑張ってそこに向かって努力して、今はその夢を手に入れた状態です。

いざ手に入れたら手に入れたで、今度は今後の働き方とか、ずっと今の仕事が出来るだろうか?とか、私が作りたいもの、作れるものってなんだろう?とか、また色々な悩みや目指したい場所が生まれるわけです。多分これは一生終わらなくて、恐らくこれこそが「生きる」ということの全てなのでしょう。目指すものの程度が例えば人によって「大きい仕事をしたい、社長になりたい」だったり、「家庭を持って子供が欲しい」だったり、もしくは「少しいい暮らしをして、猫を飼いたい」だったり、程度が違うだけで、多分みんなみんな同じなのです。

 

そんな風に何かを目指して何かに向かう全ての人に魔法の力があると優しく教えてくれる、それが「魔女見習い」という作品なのかなと思います。

 

作中の三人に魔法をくれたのがたまたま「おジャ魔女」だっただけで、私たちにとってのそれが人によっては別のアニメや漫画だったり、ゲームだったり、小説だったり、音楽だったりするのではないでしょうか。

 

 

以上が、「おジャ魔女を知らないおジャ魔女世代の私」から見た「魔女見習いをさがして」という作品の感想です。率直に言ってかなり素晴らしい、素敵な映画体験が出来ました。私と同世代で同じような社会的立場で、心に大切な拠りどころのコンテンツを持っている…そんな方に特に勧めたい作品です。

特定のコンテンツの要素を持ちながらそのコンテンツのファンだけのもので収まらない物語を表現する、というのは私がとてもやりたいことのひとつでもあるので、その点でもかなり度肝を抜かれました。

 

おジャ魔女ファンの方の感想を見ていると、ファンの方にしか分からないようなファンサービス要素もたくさんあるみたいで、タイトルファンの人から見ても満足出来る作品と認識して間違いないようです。ファンの人もそうではない人もどちらも楽しめるというのは、やはりかなりハイレベルな作品なんじゃないかなと…。

 

 

気になる方は良かったら見に行ってみて下さい!では〜。